こころと体の健康相談室

高齢者の摂食嚥下障害:専門職のための見極め、評価、支援、そして多職種連携の要点

Tags: 摂食嚥下障害, 高齢者, 専門職, 多職種連携, 栄養, 誤嚥性肺炎, 口腔ケア

本稿は、地域包括支援センター職員や社会福祉士をはじめとする高齢者支援に携わる専門職の皆様を対象に、高齢者に多く見られる摂食嚥下障害(食べ物や飲み物をうまく飲み込めない状態)について、その特徴、見極めのサイン、評価の視点、具体的な支援策、そして多職種連携の重要性とその推進における要点を体系的に解説することを目的としています。高齢者の摂食嚥下障害は、低栄養、脱水、誤嚥性肺炎といった身体的な問題だけでなく、食事の楽しみの喪失によるQOLの低下、さらには社会的な孤立にもつながる重要な課題です。専門職として、これらの課題に適切に対応するための情報を提供します。

高齢者の摂食嚥下障害とは

摂食嚥下障害とは、口腔から胃に至る一連の摂食嚥下過程のどこかに障害が生じ、食物や水分を安全かつ効率的に摂取することが困難となる状態を指します。高齢者においては、加齢に伴う生理的な機能低下(咀嚼筋・嚥下筋の筋力低下、唾液分泌量の減少など)に加え、脳血管疾患の後遺症、神経変性疾患(パーキンソン病など)、認知症、呼吸器疾患、薬剤の影響など、様々な要因が複合的に関与して発生することが多いです。

この障害は、単に食事が摂りにくくなるだけでなく、以下のような様々な問題を引き起こす可能性があります。

専門職による見極めのポイント:早期発見のサイン

高齢者の摂食嚥下障害は、必ずしも明確な症状として現れるわけではありません。しかし、日々の関わりの中で注意深く観察することで、早期発見につながるサインを捉えることが可能です。以下は、専門職が見極める際に留意すべき具体的なサインです。

これらのサインは、摂食嚥下障害の可能性を示唆するものです。複数のサインが認められる場合や、サインが継続・悪化する場合は、より詳細な評価や専門職への相談を検討する必要があります。

評価の視点:簡易的なアセスメントと専門評価へのつなぎ

専門職が摂食嚥下障害を疑った場合、まずは簡易的なアセスメントを行うことが考えられます。これは、詳細な専門評価が必要か否かを判断するための入口となります。

簡易的なアセスメントの例:

簡易的なアセスメントの結果、摂食嚥下障害の可能性が高いと判断される場合、あるいは誤嚥性肺炎などのリスクが懸念される場合は、速やかに専門的な評価につなげることが極めて重要です。専門評価は、医師(内科医、耳鼻咽喉科医など)、歯科医師、言語聴覚士、管理栄養士などが連携して行います。

専門的な評価の例:

これらの専門的な評価を通じて、障害の原因、重症度、適切な食事形態や支援方法が明らかになります。

具体的な支援策:多角的なアプローチ

摂食嚥下障害に対する支援は多岐にわたります。専門職として、本人の状態や生活環境に合わせて、これらの支援を適切に組み合わせ、提案・調整することが求められます。

相談窓口・支援サービスとの連携

高齢者の摂食嚥下障害に対応するためには、様々な専門職やサービスとの連携が不可欠です。専門職の皆様は、これらの相談窓口や支援サービスに関する知識を持ち、適切に連携を図る役割を担います。

多職種連携の重要性とその推進

摂食嚥下障害への対応は、一職種のみでは完結できません。医師による診断・治療、歯科専門職による口腔管理、言語聴覚士による機能評価・訓練、管理栄養士による栄養管理、看護師による全身管理・ケア、介護職による日常的な食事介助や口腔ケア、ケアマネジャーによるサービス調整、そして専門職の皆様による総合的なアセスメントと多機関・多職種間のコーディネートが一体となってこそ、質の高い支援が実現できます。

多職種連携を円滑に進めるためには、以下のような点が重要です。

地域包括支援センターの職員や社会福祉士は、これらの連携のハブとなり、関係者間の橋渡し役として、また、地域の社会資源に関する知識を活かし、適切なサービスへと対象者をつなぐ重要な役割を担います。

まとめ

高齢者の摂食嚥下障害は、その兆候を見逃さず、早期に適切な評価と多角的な支援につなげることが、合併症の予防とQOLの維持・向上に不可欠です。専門職の皆様には、日々の業務の中で高齢者の摂食嚥下に関するサインに注意を払い、簡易的なアセスメントを行うとともに、必要に応じて医療、歯科、リハビリテーション、栄養といった様々な専門職やサービスとの連携を積極的に図っていただきたいと考えます。本稿が、皆様の高齢者支援業務の一助となり、より質の高い支援に貢献できることを願っております。

高齢者の低栄養については「高齢者の低栄養:専門職が知っておくべきサイン、評価方法、そして支援策」を、口腔ケアの重要性については関連する記事も参照ください。