こころと体の健康相談室

専門職が知っておくべき高齢者の聴覚障害:見極めとコミュニケーション、そして多職種連携の要点

Tags: 高齢者, 聴覚障害, 難聴, コミュニケーション支援, 多職種連携, 地域包括ケア

はじめに:高齢者の聴覚障害への専門職の関わり

地域包括支援センター職員や社会福祉士といった高齢者支援に携わる専門職の皆様にとって、高齢者の抱える多様な健康問題や生活課題への対応は、日々の業務において重要な部分を占めています。その中でも、見過ごされがちでありながら、高齢者の心身の健康や社会生活に深刻な影響を及ぼすものの一つに「聴覚障害」があります。

本記事では、高齢者の聴覚障害について、その現状、専門職が見極めるべきサイン、生活への複合的な影響、円滑なコミュニケーションのための工夫、利用可能な支援策や相談窓口、そして多職種連携の重要性について解説します。本情報が、専門職の皆様が業務の中で高齢者の聴覚に関する課題に気づき、適切な支援につなげるための一助となれば幸いです。

高齢者における聴覚障害の現状と健康・生活への影響

聴覚は、周囲の情報を得るための重要な感覚機能です。加齢に伴う聴力低下(加齢性難聴)は多くの高齢者にみられ、国内の調査によると、75歳以上では半数近くに何らかの聴力低下が認められるとされています。しかし、聴力低下は緩やかに進行することが多く、本人や家族が自覚しにくいため、放置されることも少なくありません。

聴覚障害は単に「聞こえにくい」という問題に留まらず、高齢者の健康や生活に複合的な影響を及ぼすことが知られています。主な影響としては、以下のような点が挙げられます。

このように、高齢者の聴覚障害はQOL(生活の質)を著しく低下させるだけでなく、より深刻な健康問題や生活課題を引き起こす可能性があるため、専門職が早期に見極め、適切な対応につなげることが極めて重要です。

専門職が見極めるべき聴覚障害のサイン

高齢者の聴覚障害は、本人からの訴えがない場合でも、周囲からの観察によって気づくことができるサインがいくつかあります。専門職が訪問時や面談時に注意深く観察することで、早期発見につながることがあります。

本人や家族からの訴え以外のサイン

これらのサインに気づいた場合は、聴覚障害の可能性を視野に入れ、本人や家族に丁寧に状況を確認することが重要です。

簡易的なチェック方法

専門的な聴力検査は医療機関で行われますが、専門職が日常生活の中で簡易的に聴力を確認する視点を持つことも有用です。

聴覚障害の種類と専門医への受診勧奨

高齢者に最も多く見られるのは、内耳の障害による「感音性難聴」、特に加齢に伴う「加齢性難聴」です。これは多くの場合、治癒が難しく、補聴器などで聞こえを補うことが主な対応となります。しかし、耳あかの詰まりや中耳炎などが原因で音が伝わりにくくなる「伝音性難聴」や、両方が混合した「混合性難聴」の可能性もあります。伝音性難聴の中には、治療によって改善するものもあるため、正確な診断のためには耳鼻咽喉科医による専門的な診察が不可欠です。

聴覚障害が疑われる場合は、まず耳鼻咽喉科の受診を勧めます。特に、急な聞こえにくさや耳鳴り、めまいなどを伴う場合は、放置せずに早期に受診することが重要です。受診勧奨にあたっては、「年のせいだから仕方ない」と諦めずに、「耳の健康状態を確認して、より快適に過ごせる方法がないか専門家と一緒に考えてみましょう」といった前向きな声かけを検討します。

コミュニケーションを円滑にするための工夫

高齢者の聴覚障害があっても、コミュニケーションの方法を工夫することで、よりスムーズな意思疎通が可能になります。

具体的な支援策と相談窓口

高齢者の聴覚障害に対する支援は多岐にわたります。専門職はこれらのサービスについて情報を提供し、必要に応じて利用に繋げる役割を担います。

専門職としては、これらのサービス全体の流れや利用条件を把握し、対象となる高齢者の状況に合わせて適切な情報を提供することが求められます。

多職種連携の要点

高齢者の聴覚障害への支援は、単一の専門職だけで完結することは少なく、多職種・多機関との連携が不可欠です。

専門職間で聴覚障害が高齢者の生活に与える影響について共通認識を持ち、それぞれの専門性を活かして連携することで、よりきめ細かく、包括的な支援を提供することが可能となります。

まとめ

高齢者の聴覚障害は、日常生活の困難さや社会的な孤立、さらには認知機能低下やうつ病のリスクを高める、見過ごせない課題です。専門職は、日々の業務の中で高齢者の聴覚障害のサインを見逃さず、本人や家族の訴えに耳を傾けることが大切です。

聴覚障害が疑われる場合は、まず耳鼻咽喉科での正確な診断を促し、必要に応じて身体障害者手帳の申請や障害者総合支援法に基づくサービス、各自治体の支援事業、補聴器の専門家への相談など、適切な支援やサービスに繋げることが専門職の重要な役割です。

また、高齢者の聴覚特性を踏まえたコミュニケーションの工夫を取り入れること、そして医師、リハビリ専門職、福祉専門職、補聴器関連専門家、家族など、多職種・多機関が連携して支援にあたることが、高齢者のQOL維持・向上、そして地域での安心した生活の継続に繋がります。

本記事で解説した情報が、専門職の皆様が担当する高齢者の聴覚に関する課題解決の一助となり、より質の高い支援の実践に繋がることを願っております。

(関連情報:サイト内「高齢者の孤独・孤立」「高齢者の意欲・活動性の低下(アパシー)」等の記事も参照ください。)