こころと体の健康相談室

高齢者の痛み:専門職が見極めるサイン、評価、支援、そして多職種連携の要点

Tags: 高齢者, 痛み, 慢性痛, アセスメント, 多職種連携

本稿は、地域包括支援センター職員や社会福祉士といった高齢者支援に携わる専門職の皆様に向けて、高齢者が抱える痛みに焦点を当て、その見極め方、評価、適切な支援、そして多職種連携の重要性について解説することを目的としています。高齢者の痛みは、単なる身体的な不快感に留まらず、ADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)の低下、精神的な不調、社会活動からの引きこもりなど、様々な複合的な課題を引き起こす要因となります。これらの課題に対応するため、専門職として痛みを適切に理解し、関わっていくことは非常に重要です。

高齢者における痛みの特徴と見極め

高齢者の痛みは、若年層と比較していくつかの特徴があります。痛みの原因が多岐にわたる(変形性関節症、神経痛、脊柱管狭窄症などの疾患、過去の外傷、術後疼痛、悪性腫瘍など)ことに加え、複数の痛みを同時に抱えている場合も少なくありません。また、認知機能の低下やコミュニケーション能力の低下により、痛みをうまく表現できない、あるいは痛みを訴えることを諦めてしまうケースも見られます。

専門職が見極めるべき痛みのサインは、言葉による訴えだけではありません。以下のような非言語的なサインや行動の変化に注意を払うことが推奨されます。

これらのサインは痛みに限らず他の原因による場合もありますが、痛みの存在を示唆する重要な手掛かりとなります。日頃から対象者の状態をよく観察し、普段との違いに気づくことが第一歩です。

痛みの評価:専門職が活用できる視点とツール

痛みの存在に気づいたら、次に痛みの性質や影響を評価することが重要です。高齢者の痛みの評価においては、主観的な訴えだけでなく、客観的な情報や行動観察を組み合わせることが求められます。

これらのツールは痛みの強さを数値化・可視化するのに役立ちますが、最も重要なのは対象者の全体像(既往歴、合併症、内服薬、生活環境、心理状態など)を把握し、痛みがその方の生活に与える影響を多角的に理解することです。

高齢者の痛みに対する専門職の支援と連携

痛みの評価に基づき、適切な支援に繋げることが専門職の役割です。直接的な痛みの治療は医療機関の役割ですが、専門職は医療と生活の間を繋ぎ、対象者のQOL向上をサポートすることができます。

多職種連携の要点

高齢者の痛みへの対応は、一職種のみで完結することは困難であり、多職種連携が不可欠です。関係する主な専門職とその連携の要点を示します。

地域包括支援センター職員や社会福祉士は、これらの多職種を結びつけ、対象者を中心に据えた支援計画を作成・実行するコーディネーターとしての役割を担います。痛みの情報を共有し、各専門職の視点を踏まえ、包括的な支援を行うことが求められます。

相談窓口・支援サービス

高齢者の痛みに関する相談や支援については、様々な窓口やサービスが利用可能です。

専門職は、これらの窓口やサービスの内容を把握し、対象者の状況に応じて適切な情報提供や繋ぎ役となることが期待されます。

まとめ

高齢者の痛みは複雑であり、ADLやQOL、そして精神的な健康にも深く関わる重要な課題です。地域包括支援センター職員や社会福祉士といった専門職が、痛みの非言語的なサインを含む様々な兆候に気づき、多角的な視点から痛みを評価し、医療機関を含む多職種と緊密に連携しながら、対象者一人ひとりに合った包括的な支援を提供することが、高齢者の尊厳ある生活を支える上で不可欠です。本稿が、皆様の日々の業務における一助となれば幸いです。