こころと体の健康相談室

高齢者の睡眠問題へのアプローチ:専門職のための見極めと多職種連携のポイント

Tags: 高齢者, 睡眠障害, 不眠, 専門職, 地域包括支援センター, 社会福祉士, 多職種連携, 睡眠衛生, アセスメント, 健康相談

高齢者の支援に携わる専門職の皆様へ。日々の業務において、ご担当の高齢者から「よく眠れない」「昼夜が逆転して困る」といった睡眠に関する相談を受ける機会は少なくないかと存じます。高齢者の睡眠問題は、単なる不快な症状に留まらず、心身の健康状態や生活機能に深刻な影響を及ぼす可能性があります。本記事では、高齢者の睡眠問題を見極め、適切なアプローチを行い、多職種連携によって効果的な支援を提供するためのポイントについて解説いたします。

高齢者の睡眠問題の現状と重要性

加齢に伴い、睡眠の質やパターンには生理的な変化が見られます。例えば、深い睡眠(ノンレム睡眠のステージ3, 4)が減少し、中途覚醒が増える傾向があります。また、睡眠時間は若年期に比べて短くなることが一般的です。しかし、これらの生理的変化に加えて、疾患、薬剤、心理的要因、生活環境の変化などが複合的に影響し、高齢者では様々な睡眠障害が生じやすくなります。

厚生労働省の調査などからも、高齢者の睡眠に関する悩みや不満の割合が高いことが示されています。睡眠問題は、以下のような心身の健康や生活機能に多岐にわたる悪影響を及ぼすことが知られています。

これらの影響を理解することは、睡眠問題が単なる「年のせい」ではないこと、そして専門職による適切な介入が重要であることを認識する上で不可欠です。

高齢者の睡眠問題を見極めるためのポイント

高齢者の睡眠問題は多様であり、その背景には様々な要因が隠れている場合があります。専門職としては、単に「眠れない」という訴えだけでなく、その質やパターン、そして背景にある要因を丁寧にアセスメントすることが求められます。

どのような睡眠問題を抱えているか

高齢者によく見られる睡眠問題の種類として、以下が挙げられます。

これらの種類を念頭に置き、具体的な症状を聴取することが重要です。

背景にある要因のアセスメント

睡眠問題は、多くの場合、単一の原因ではなく複数の要因が複合的に影響しています。

これらの要因について、丁寧な問診や情報収集を行うことが不可欠です。必要に応じて、本人だけでなくご家族や介護者からの情報も収集します。

問診と簡易評価のポイント

専門職による具体的な支援と多職種連携

アセスメントの結果に基づき、専門職は個別の状況に合わせた支援を行います。

生活習慣への助言(睡眠衛生指導)

薬物療法に頼る前に、まずは睡眠衛生の改善が重要です。専門職は、以下の点について高齢者本人やご家族に分かりやすく説明し、実践を促します。

医療機関への受診勧奨と多職種連携

睡眠衛生指導などで改善が見られない場合や、睡眠時無呼吸症候群、周期性四肢運動障害、レム睡眠行動障害などが疑われる場合は、医療機関への受診を強く勧めます。

認知行動療法(CBT-I:不眠に対する認知行動療法)は、不眠症に対する非薬物療法として効果が確立されており、ガイドラインでも推奨されています。CBT-Iを提供できる専門機関や専門家(精神科医、心理士など)への繋ぎを検討することも、専門職の重要な役割の一つです。

相談窓口・関連リソース

高齢者の睡眠問題に関する相談や支援を行う上で、以下のリソースが参考になります。

まとめ

高齢者の睡眠問題は、その背景が複雑であり、心身の健康やQOLに広範な影響を及ぼします。地域包括支援センター職員や社会福祉士をはじめとする専門職の皆様が、高齢者の睡眠に関する訴えを丁寧に傾聴し、その多様な側面を見極め、適切な支援に繋げることが極めて重要です。睡眠衛生指導といった身近なアプローチから、医療機関への受診勧奨、そして多職種間での緊密な連携に至るまで、包括的な視点での支援が、高齢者のより良い睡眠、そして健やかな暮らしを支えることに繋がります。本記事が、皆様の日常業務の一助となれば幸いです。